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「うん、そう」
私の言葉に、彼女は戸惑った表情で首を横に振った。
「人違いだと…思います」
「ううん。あなたであってる。…柘植(つげ)先輩」
柘植先輩はぽかんとして、呆然と私を見ていた。
「珍しい名前だよね。読めなかった」
「あ…あの」
柘植先輩は言葉を切り、俯いてしまった。
「…これ」
ポケットから栞を取り出し、俯いた柘植先輩の目の前に差し出す。
柘植先輩はゆっくりと顔を上げ、私と栞を交互に見た。
「あの…どうして…」
「拾ったの。おととい、廊下ですれ違った時。ちょっと折れちゃったんだけど…」
柘植先輩はそろそろと栞を受け取ると、小さく「ありがとう」と言った。
頬がほんのり紅潮していた。
「ここ、通ってるの?」
尋ねながら、柘植先輩の向かいの席に座った。
「はい…。でも、なんで…」
「昨日もここ来たの。栞渡したかったんだけど、あまりに熱心に読んでたから」
柘植先輩は恥ずかしそうに視線をさ迷わせ、栞を人差し指で撫でた。
「大切なものでした。…ありがとうございます」
柔らかい笑みに、とくんと胸が鳴った。
「いや、別に…」
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