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紫陽花が見たかった。 梅雨の季節に一瞬咲く、あの紫色の花が見たかった。 サンドイッチを食べ終わり、時計に目を向けると1時ちょうど。 午後の授業まではあと20分ある。 私は教室を出て、別館へ向かった。 別館の隣には広い花壇があって、季節ごとに植物が植えられている。 いまの季節は紫陽花だ。 陸上部を辞めてから、私は散歩をよくするようになった。 それはただ、陸上部にいた頃のランニングの癖が残っているだけなのだけれど、学校を歩き回るのは楽しかった。 陸上部を辞めてよかったと思うほどに。 *** 紫陽花は咲いていた。 花壇の隅に、身体を寄せ合うようにして。 柔らかそうな花びらが、雨の雫に揺れていた。 葉っぱの上で大きくなってしまった雫が滑り落ちる度、泣いているみたいだと思った。 足音がして振り返ると、サイドに2つ、三編みを結った女子生徒が立っていた。 図書室に繋がる狭い階段から降りてきたのだ。 眼鏡の奥の瞳が一瞬私を捉えて、すぐに視線を逸らされた。 そして、私の脇を通り過ぎた。 知らない子だったから、私も気にしなかった。 通り過ぎた直後、ふわりと甘い香りがして、思わず振り返る。 私の足元に一枚の栞が落ちていた。
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