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小さく深呼吸をして、私は研究室の冷たいドアノブに手をかけた。
扉を開けて真っ先に目に入ってきたのは、コケのような色をした、深緑色の床だった。
その上を、氷の上を歩くかのように、おずおずと進んで行く。
右手には、冷蔵庫を大きくした感じのインキュベーター。
左手には、口をアルミ箔で閉じられたフラスコやビーカーが置かれている、ネズミ色の棚。
その間を通り抜けると、白衣を着た、病気じゃないかと心配になるくらいに頬のこけた男の人が、クリーンベンチの前に座って、淡々とシャーレに寒天培地を溶かし入れている姿が目に入ってきた。
やっぱ、ちょっと…怖いなぁ。
ホワイトボードにくっついている愛らしいリラックマのマグネットがなかったら、私はこの場の息苦しさに、窒息死してしまうところだっただろう。
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