プロローグ―――聖帝人

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――― 僕の名は尾熊太郎丸。この国で言うところの生粋の『聖帝人』という事になっている。 僕は生まれてきた時、独りだった。いや...だったと思う。 あと、最初に言ったようにこの場合、生まれてきたと言ってしまうのは適切ではない。 気が付けばここにいた、と言った方が正しいだろう。ただ、今は独りじゃない。同じ聖帝人である志木三平という人に面倒を見てもらっている。 僕は、その人を『オヤジ』、と呼ぶ。 意味はわからない。うちのオヤジも『オヤジ』の意味はわからないと言っている。 そう呼ぶようにと『ウエジニーリ総合施設』から、その『オヤジ』と僕が呼ぶ人物を紹介された時、教わったのだ。 ウエジニーリ総合施設というのは、国家が運営する総合養育施設と呼ばれるものだ。 相当な数の人間が、そこから『オヤジ』の元へと巣立って行く。その殆どは小さな内に。 そもそもが、この国の国民は皆、そこから『オヤジ』の元へと各人旅立ち、そしてやがては成人して一人前の大人となる。 自分が将来、その『オヤジ』になるかどうかはわからない。それは抽選で決まるからだ。 うちのオヤジは元来身体が弱いらしく、その昔戦争があった頃、召集を辞退できる代わりに半ば強制的に礼状が回って来たらしく、まだ小さい僕をやむなくして施設から引き取ったのだそうだ。 とは言っても余程の好き者でもない限り、好んで抽選に参加する事などはしないという。それもそのはず、何故なら発展途上で貧困の差が激しいこの国で、自らの食いぶちが減るような事は誰しもしたくはないからだ。 だからこそ、恐らくはその大半が国からの『依頼』と見ても間違いはないだろう。 うちのオヤジを始め、皆、国家の命という事と、将来的に何らかのささやかな足しにでもなればとの思いで、受け取り育てるのだ。 独り身から始まるこの国では、老後までの気休めにと、言わば共同生活者、いわゆる同居人として扱うのだ。  施設に限っては僕達の生活とは裏腹に、流石は国の管理下におかれるだけあって、各地随所にその支所がおかれいる。その規模についても実に様々で、帝都本部を始めとする都市部の巨大なものから、地方に行けばそれこそ仮設のものまであるという。 僕の居た場所は帝都に程近く、比較的その規模は広大なものだった。
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