プロローグ―――聖帝人

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オヤジは学校を出ていない。単純に頭が悪いからだ。そして当然の如くオヤジもかの施設で育ち、オヤジにもまた『オヤジ』がいた。 オヤジの『オヤジ』に関してはあえて触れるような事はしなかった。 僕は今でこそオヤジに面倒を見てもらっていると言ったが、物心ついた時には施設の生活、気が付けば年齢に関係なく『オヤジ』が見つかった時点で半強制的に施設から出されるこの国では、法律で二十歳を超えるまで共同生活する事になっており、言ってしまえば今の生活も、施設の生活のそれの延長線上に何らの変わりもない。 言ったように、何処からともなく施設という空間に、自分達を含めた、その存在意識もままならない者が同じくして多くの同様の者達と共にそこには介在し、そして生活があった。 そして、早ければ物心付く前には今度は得体の知れぬ『オヤジ』との生活が始まるのだ。 これも施設側の諸々の事情かと思えば、そうでもないらしい、とは学校で担任から聞いた話だ。 何やら、今の時代、そういうスタンスになっているらしい。この形態を『帝國民共同生活者補助制度』などと呼んでいたが、確か...記憶ではそれを『家族』と何処かの進んだ国では呼ぶらしいのだが...。 だから、寧ろこの国は、聖帝は遅れているのだと。 しかしながら、学校での授業などでは、この状況についてはその意味も何一つとして教えてはくれない。 皆一様に疑問は抱いてはいても、それを周囲の大人や、まして教師になど尋ねる者などいない。 なぜなら聞いたところで望む返答など得られはしないからだ。 ただ、僕の小学校時代の担任教師は少し違った。授業を脱線してまで興味深い話を色々してくれた。 それは作り話だったか、真実だったか事の真偽はわからずも、そのどれもが、好奇心旺盛な僕達にとって新鮮なもので毎度、授業は実に楽しみなものだった。 その中で、僕達のこの国の話は頻繁に聞かせてくれた。 ただ、この国の話と言っても、今の聖帝とは違う。聖帝になる少し前、昔のこの国の話だ。 それは僕がこの国に存在するよりずっと前、この国で大規模な一大クーデターが巻き起こった。 その事で、それまで長く続いた政権は今の聖帝に交代したわけだが、それはこの国の歴史にとって かなりの大きな変革となった。 それまでの常識は全て覆され、同じ国でありながら、崩壊した過去の国に纏わる話は一切口に出す事も禁じられてしまったのだ。
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