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ハァ…ハァ…
はく息は白く、先ほどから降りだした細かい雨が、ますますその息を凍えさせ、深く被ったパーカーのフードから時折みせる少年の表情は苦しそうに歪んでいた。
都会の雑然とした街中を、もう、どのくらい走り続けただろう…。
気がつけば辺りはすっかり暗くなり、視界に入るのは見覚えのない建物ばかりになっていた。
…逃げた…俺、逃げてきたんだ…。
なりふり構わず、とにかくあの鬼から、あの悪魔の住む家から、飛び出してきた。今までだって、何度も何度も逃げ出そうとしてきた。でもできなかったんだ。もしかしたら母さんが…明日にでも俺を迎えにきてくれるかもしれない、母さんが迎えに来てくれたときに俺がここにいなかったら困ってしまうかもしれない…なんて、淡い、儚い夢を見ていたから…。
でも、もう限界だ。このままじゃ死んだほうがましだ。いや、もしかしたら俺の心はもう、死んでしまっているのかもしれない。もう、痛みも絶望も感じなくなっていた。ならば…!アイツの前で死ぬくらいなら…、あんな家で死ぬくらいなら、最期くらい自由に空を飛びたい。…そうだ、俺は死ぬつもりで、死ぬ覚悟で、家を飛び出したんだ…。
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