146人が本棚に入れています
本棚に追加
開かれたドアの中に入ると、そこはとにかく温かく、今までの暗くて冷たい世界がまるで嘘のように優しい空気が漂っていた。
店内はさほど広くはなく、4人がけのテーブルが二つと、4~5人ほど座れるカウンターがあるだけだった。
カウンターの中にはマスターらしき30代前後の男が一人いただけで、他に客の姿はなかった。
「お?いらっしゃい」
エプロンの彼の後ろにいる少年に気がついて、マスターが声をかける。少年は少しだけ首を縦に動かすと、すぐに目を伏せて、奥の4人がけのテーブルに腰をかけた。
マスターはエプロンの彼に向き合うと、
「友達?」
と、声をかけた。
エプロンの彼は声を出さずに首を横に振ると、手でカップを持つ仕草をした。
「あいよー」
マスターはうなずき、カウンターの中の機械に手をかけ、カフェオレをいれはじめた。
少年はフードを頭から外し、冷たくなった手をパーカーのポケットに入れ、ゆっくりと、誰にも気づかれないくらい静かに息をはき、壁の隅のコーナーに身を傾けて寄りかかった。
最初のコメントを投稿しよう!