ブサイクと王子

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当たり前のように 車道側を歩く霧生篤彦。 王子様はこういうことが 身体に染みついてるんだろうなあ とか、 ああ、焼きそば食べたいなあ とか、 どうでもいいことを 考えいた。 霧生篤彦の話す内容は 右から左に受け流す。 だから、注意力が 散漫になっていたんだろう。 「鈴子さん!!」 「!!」 目の前に腕が現れて、 ぐっと後ろに引き寄せられた。 その直後、 低い音と高い音が 混ざった音がした。 陶器の割れる音。 マンションから 大きな花の植木鉢が降ってきたみたいだった。 植木鉢は、水風船が 爆発したみたいに 土や鮮やかな花が ぶちまけられていた。 「危な…大丈夫?」 霧生篤彦が抱き寄せるように 私を庇う。 顔のすぐ近くに 霧生篤彦の胸板があった。 物腰柔らかな見た目の割に がっしりとした胸板。 布一枚分で、 私と霧生篤彦の距離は 隔てられていた。 温かい、 体温を感じた。 とくん。 と霧生篤彦の心臓が 鳴ったような気がして 私は恩人を 思いっきり突き飛ばした。 春のにおいがした。 突き飛ばしたら、 春のにおいが遠ざかった。 そう意識したら、 耳がすごく熱くなってきた。
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