261人が本棚に入れています
本棚に追加
「ゥゥウウウウ・・・」
後ろから唸り声が聞こえた。振り返ると熊が起き上がろうとしている姿が目に飛び込んで来た。
「ヤバイ!起きたぞ!」
今度は俺が女の腕を引っ張り先を走る。
そして、どれくらい茂みのなかを走ってきただろうか。結構な距離を走った。
これだけ走ればきっと大丈夫だろう。
「ハァ、ハァ・・・」
どちらにしても、もう走れない。
女も身をかがめ空気を大量に出し入れしている。
前髪が邪魔していて顔はまだよく見えない。
「やるな、お前」
学生時代に部活で鍛えた俺は走ることに自信があった。でもこの女はそのスピードにほぼついてきた。
「学生時代陸上部だったから。短距離専門だったけど」
初めて女と目があった。透き通るような黒い瞳。
5時間前に見つけた赤紫の花と同じように、俺の心はこの女に奪われた。
最初のコメントを投稿しよう!