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「兄ちゃんたちが逃げるからこっちは必死やったでぇ」
「・・・いやッ!こっちが必死でしたよ!逃げるのに」
着ぐるみだと解ってもまだ怖い。それほど巧みに作られている。
「そこで寝ている姉ちゃんを見つけたとき、嬉しくて儂、走って近づいてしもうてん。 自分の格好も忘れてな。そんで、発せられた悲鳴に自分がビックリして気絶してもうたんわ。アホやろ?儂。ワッハッハッハ!」
確かに未だにその格好をしているあなたはアホですよ、という言葉は呑み込んだ。
「暑くないんですかその格好?真夏ですよ」
「それはこっちの台詞やで兄ちゃん。コートなんて着てぇ」
「俺は撮影で・・・」
「撮影?モデルさんかいな。道理でイケメンやと思ったわ。・・・撮影に熊さんは必要ないか?」
熊がにやけている。
「いえ、結構です」
俺はきっぱり断った。だが杉田さんが此処に居たら、確実に熊とのツーショットを撮っていたに違いない。
もしかしたら、懇願してまでも撮ったかもしれない。面白いことが大好きな人だ。
それに、ここまで精巧な熊、読者が勘違いしてアニマルタレントを雇ったと思っても可笑しくはないだろう。
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