チトセとルイ

2/3

1人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
        「…ママ…。」 黒髪の少女──千歳(チトセ)は、ポロポロと溢れる大粒の涙を袖で拭う。 今行っているのは、千歳にはよく理解できなかったが、葬式という儀式らしい。 白や黄色の菊の中、幸せそうに微笑んだ女性の遺影がある。 「…1人にしないで…。」 延々と続くお経も、一定のリズムで叩かれる木魚の音も、ずいぶん遠くにぼんやり聞こえる気がする。 「原因不明の病気だそうよ。」 「あの子も可哀相にな…。」 「まだ12歳なのにねぇ…。」 「確か、父親は事故で…だったよな?」 座り込んだ千歳の周りで、見知らぬ大人がヒソヒソと話している。 (…これからどうなるのかな…。) 「千歳ちゃん!」 「え…?」 呼ばれた方を向くと、中年男性が心配そうに走ってきたところだった。 後ろから、女性と男の子も歩いてきた。 千歳は男の顔をじーっと見たが、誰なのかわからなかった。ただ… 「…パパ、に似てる…。」 「おぉっ、よくわかったなぁ。僕はね、君のパパの弟なんだよ。初めまして。」 「初めまして…。パパの弟…?」 「ああ、仁(ジン)っていうんだ。──こっちは僕の奥さん。」 隣で優しい微笑みを浮かべた女性を見て、照れたように笑う仁。 「梨乃(リノ)だよ~。大変だったね、千歳ちゃん…。──あ、紹介するね。」 少しぼんやりした彼女は、仁の妻とは思えないほど若く見える。 「息子の琉衣(ルイ)、えっと、10歳だったかな?」 「んー、そのくらいだよ。」 2人の会話に、仁が首を傾げた。 「琉衣はもう13だろう?」 「あっ!そうだったね~。」 ほんわか家族と話していた千歳の涙は、いつの間にか止んでいた。 「琉衣だよ!」 「…千歳。」 元気に差し出された琉衣の手に、千歳もおずおず手を差し出した。 「…僕達も、ママに挨拶してきていいかな?話があるから。」 千歳は小さく頷いた。 2人は、遺影に向かって祈りを捧げた。 「わぁ、千歳ちゃん、すっごい可愛いね!誰かに似てるよ!」 (…血が繋がってるんだから、似てる人なんていっぱいいるもの…。) 仁と梨乃が2人の元へ戻ってきた。 「…仁。」 「ああ、そうだね。」 仁はゆっくりとしゃがみ、千歳と目線を合わせる。 「…千歳ちゃん。これからは、僕達の家に住まないかい?」 (…えっ…?)
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加