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「…ママ…。」
黒髪の少女──千歳(チトセ)は、ポロポロと溢れる大粒の涙を袖で拭う。
今行っているのは、千歳にはよく理解できなかったが、葬式という儀式らしい。
白や黄色の菊の中、幸せそうに微笑んだ女性の遺影がある。
「…1人にしないで…。」
延々と続くお経も、一定のリズムで叩かれる木魚の音も、ずいぶん遠くにぼんやり聞こえる気がする。
「原因不明の病気だそうよ。」
「あの子も可哀相にな…。」
「まだ12歳なのにねぇ…。」
「確か、父親は事故で…だったよな?」
座り込んだ千歳の周りで、見知らぬ大人がヒソヒソと話している。
(…これからどうなるのかな…。)
「千歳ちゃん!」
「え…?」
呼ばれた方を向くと、中年男性が心配そうに走ってきたところだった。
後ろから、女性と男の子も歩いてきた。
千歳は男の顔をじーっと見たが、誰なのかわからなかった。ただ…
「…パパ、に似てる…。」
「おぉっ、よくわかったなぁ。僕はね、君のパパの弟なんだよ。初めまして。」
「初めまして…。パパの弟…?」
「ああ、仁(ジン)っていうんだ。──こっちは僕の奥さん。」
隣で優しい微笑みを浮かべた女性を見て、照れたように笑う仁。
「梨乃(リノ)だよ~。大変だったね、千歳ちゃん…。──あ、紹介するね。」
少しぼんやりした彼女は、仁の妻とは思えないほど若く見える。
「息子の琉衣(ルイ)、えっと、10歳だったかな?」
「んー、そのくらいだよ。」
2人の会話に、仁が首を傾げた。
「琉衣はもう13だろう?」
「あっ!そうだったね~。」
ほんわか家族と話していた千歳の涙は、いつの間にか止んでいた。
「琉衣だよ!」
「…千歳。」
元気に差し出された琉衣の手に、千歳もおずおず手を差し出した。
「…僕達も、ママに挨拶してきていいかな?話があるから。」
千歳は小さく頷いた。
2人は、遺影に向かって祈りを捧げた。
「わぁ、千歳ちゃん、すっごい可愛いね!誰かに似てるよ!」
(…血が繋がってるんだから、似てる人なんていっぱいいるもの…。)
仁と梨乃が2人の元へ戻ってきた。
「…仁。」
「ああ、そうだね。」
仁はゆっくりとしゃがみ、千歳と目線を合わせる。
「…千歳ちゃん。これからは、僕達の家に住まないかい?」
(…えっ…?)
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