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「でも…家は…?壊すの?」
「あぁ、家かぁ…。」
腕組みする仁に、梨乃が微笑む。
「残してあげればいいよ~。思い出も荷物もいっぱいあるだろうし、将来、必要かもしれないもん。」
「僕も賛成っ。」
「思い出と荷物を並べるか?──まぁ、そういうことだから、残してあげるよ。」
ことさら優しく言うと、まだ納得できない様子で千歳が遺影を見上げる。
「…パパとママになるの?」
仁と梨乃が顔を見合わせた。
「千歳ちゃんのパパとママは変わらないの。私達じゃないよぉ。」
「僕達のことは、オジサンとオバサンとでも思って、好きに呼んでくれよ。」
好きに、というのが1番困る。
「僕は千歳って呼ぶよ!妹みたいに仲良くするんだ!」
「…でも私、お兄ちゃんとは呼ばないよ?──仁と梨乃と琉衣、でいい?」
少しばかりよそよそしい気もするが、状況も状況なので突っ込まない。
千歳の引き取り先は無事、このほのぼの一家に決まった。
「じゃあ、着替えておいで。」
通夜を終えて、千歳の家に着いた。
ちなみに千歳は、礼服が無いので学校の制服を着ている。
こくっと頷き、階段を上る千歳を、悲痛な気持ちで見守った。
(…ママ…。)
自室で1人になると、また涙が溢れた。
(…でも、パパのところに行けたかなぁ?ちゃんと会えたかなぁ?)
涙をごしごしと袖で拭い、クローゼットからいそいそと服を選ぶ。
(…2人が笑えてたら、いいな。)
素早く着替えて、近くの紙袋に明日の分の着替えを詰める。
(あ…。)
そして机に飾ってあった両親の写真も、大切にタオルに包んで袋に入れた。
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