1305人が本棚に入れています
本棚に追加
「あれ、野崎くん……だよね?」
高校入学と同時に、僕は学校の近くのコンビニでアルバイトを始めた。
少しでも家計の足しになれば、と思ったからだ。
入学から一ヶ月ほど経ったある日、そのバイト先で、同じ高校の制服を着た女の子が話し掛けてきた。
「うん……そう、だけど……」
商品を持って来た彼女は、財布を広げながら僕をじっと見ている。
「あれ、もしかして覚えられてない?」
「や、うん……ごめんね……」
レジ打ちをしつつ、言い当てられてしまい、気まずくなる。
見たことはある。けれど名前までは分からない。そんな子だ。
「堀井優子。隣のクラスだから無理ないかも」
でも、これで忘れないでしょう? と笑った。ふわふわの、綿菓子みたいな表情だ。
「……ほ、堀井さん、ね」
女の子を可愛いと思ったのは、正直それが初めてで、思わず顔が赤くなる。
誤魔化すように会計金額を告げ、お金を受け取った。
お釣りを渡しても、堀井さんはそこから動く様子がない。
「野崎くん、ここでバイトしてたんだ」
「まあ……」
ふーん、と含むように笑って、彼女は続けた。
「私ね、向かいのファミレスで一昨日からバイトしてるの。だからたまに来るかも」
「そうなんだ……」
「じゃあね。バイト、頑張って」
返事をする間もなく、彼女は店を出て行ってしまう。
ただただ後ろ姿を見つめながら、頑張っての一言を噛み締めた。
「……可愛いなあ……」
次は、僕も「頑張って」と言おうと心に決めた。
単純で甘酸っぱい、僕の初めての恋。
最初のコメントを投稿しよう!