初恋の人

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「あれ、野崎くん……だよね?」 高校入学と同時に、僕は学校の近くのコンビニでアルバイトを始めた。 少しでも家計の足しになれば、と思ったからだ。 入学から一ヶ月ほど経ったある日、そのバイト先で、同じ高校の制服を着た女の子が話し掛けてきた。 「うん……そう、だけど……」 商品を持って来た彼女は、財布を広げながら僕をじっと見ている。 「あれ、もしかして覚えられてない?」 「や、うん……ごめんね……」 レジ打ちをしつつ、言い当てられてしまい、気まずくなる。 見たことはある。けれど名前までは分からない。そんな子だ。 「堀井優子。隣のクラスだから無理ないかも」 でも、これで忘れないでしょう? と笑った。ふわふわの、綿菓子みたいな表情だ。 「……ほ、堀井さん、ね」 女の子を可愛いと思ったのは、正直それが初めてで、思わず顔が赤くなる。 誤魔化すように会計金額を告げ、お金を受け取った。 お釣りを渡しても、堀井さんはそこから動く様子がない。 「野崎くん、ここでバイトしてたんだ」 「まあ……」 ふーん、と含むように笑って、彼女は続けた。 「私ね、向かいのファミレスで一昨日からバイトしてるの。だからたまに来るかも」 「そうなんだ……」 「じゃあね。バイト、頑張って」 返事をする間もなく、彼女は店を出て行ってしまう。 ただただ後ろ姿を見つめながら、頑張っての一言を噛み締めた。 「……可愛いなあ……」 次は、僕も「頑張って」と言おうと心に決めた。 単純で甘酸っぱい、僕の初めての恋。
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