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恋というものの恐ろしさを、僕はその日痛いほど知った。
授業の合間に廊下を見ては彼女を探し、別の教室に移動する間にも隣のクラスを横目で覗く。昼休みには学食に彼女が来ていないか探した。
そうして、目に入る何気ない行動の一つ一つに心を奪われる。
「お前、隣のクラスの堀井さんのこと気になってる?」
前置きもなしに友達にそう聞かれて、肩がすくんだ。
「え! 何で……分かったの」
「何でって、キョロキョロして挙動不審だし、やけに隣のクラス気にしてるから。で、視線の先には毎度同じ女の子」
遠慮なしに言ってのけた、中学からの付き合いのヨウスケは、一応僕の親友だ。
「……内緒に、しててくれる?」
そんなに分かりやすかったかな、と耳まで熱くすると、ヨウスケはそれを指さしてひとしきり笑ってくれた。
「可愛い顔するねえ」
「可愛いって言わないでよ」
常々言われた「可愛い」の台詞は、他からすると誉め言葉のつもりらしいが、僕にしてみれば全くもって不名誉で、つい目が吊り上がる。
「怒るなよ、応援するからさ」
ヨウスケは言って、僕の肩を叩きながらハハ、と笑う。
現金なもので、明るくそうやって言われてしまえば、何となくうれしくなって、一人で片思いをするよりよっぽど心強くも感じ、それなら、まあ……と釣られて笑い、応援された事を素直に喜んだ。
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