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「誰よりも、嘘を吐くんだ。」
それは純粋すぎる、矛盾のようで矛盾じゃない、言葉の、諸刃の剣。
「俺に深く関わった人は、みんな言うんだ。『お前ほどの嘘吐きは、見たことがない。』」
それは、嘘に取り憑かれた人間のようで、どこか滑稽なほどに誇らしげでした。
「だから俺は言うんだよ。『君ほど真を言う人は、大好きだよ。』」
笑顔で、どこまでも無垢に、彼は言うのです。
「大体、怒り出すんだ。俺はこの言葉を、本気で言っているのに。」
そうでしょう。
普通の人は、彼ほどの大嘘吐きを、裏切りと呼ぶのです。
「だから俺は、いつも悲しくなるんだよ。そして落胆するんだ。『やっぱりみんな嘘吐きだ。』ってね。君も、どうせ俺の体が滅ぶまで永久的に居ることはないからね。」
頬に手が添えられて、ひやりと刺激が伝わりました。
「でもね。信じてしまうんだよ。君なら、俺の隣に俺が朽ちてしまうまで、居てくれるんじゃないか。君なら、俺も正直になれるんじゃないか。誰かに出会う度に、そう思ってしまう。」
大した言葉を交わしたわけでも、大した時間を過ごしたわけでもないのに、彼は私を信じる対象にしました。
証拠に私も彼も、互いの名前すら知らないのです。
さっきから五月蝿く鳴るケータイを、電源を切って砂浜の遠くに放り、私は彼に向き合いました。
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