時計ノ無イ街

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かつて、地上には楽園と同じように木々や草花が溢れていた 美しい海や川 生をありありとその身にまとった生命たち それを汚して失ってしまった人間たちは、救いを天国へ求めた 何度も何度も作りは壊され何度も何度も作り続けられた階段は一人の能力者によって天国までたどり着いた その時点で、楽園は終焉を迎えていた その能力者は、神が気まぐれで創ってしまった創造物 創造物は今では権力者だ 神を超える権力者 天国もいつかは人間に汚され崩壊をするだろう ユチョンはかたくなにそれを否定していたユノを思って心を痛めていた 「ユチョン、これ見てください」 「何?」 「昔、このマンションが建つ前にあった海の映像です」 ざらざらと音を立ててちらつくテレビ画面に写し出された映像を見ようと、ユチョンがチャンミンに近づくと腰を引かれる。 「くすぐったい」 ユチョンを胸に納めたチャンミンが、クスクス笑う 「大丈夫?痛くない?」 「もう、慣れてますから」 ユチョンの背に少し残った羽根がチャンミンの胸を摩擦する チャンミンはユチョンの首筋にキスをした カリカリとぜんまいが戻る音が室内に響く ざらざらと映るさざ波 コトコトと煮える音がするシチュー鍋 全ての空間から楽園が失われようとしていたが、ユチョンは今、この部屋とチャンミンが居る事に幸せを感じ、そこに楽園を感じた .
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