時計ノ無イ街

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ある日ユチョンは気づいた、玄関上の隅にある泥の塊 不思議に眺めていると、チャンミンが言った 「つばめの巣ですよ」 「つばめ?」 「えぇ、渡り鳥の一種ですよ。昔はよく飛んでいたらしいですが…この地上ではもう見ることは無いでしょうね」 鳥が死んでしまった世界 鳥が飛ぶ事を止めてしまった世界 「夏を呼ぶ鳥ですよ」 季節…今ではそれを知らせるのは生き物ではない機械仕掛けの郵便配達人だけ 同じように大空を駆けていた自分を思い出す そこが全てだと信じていた世界 「どんな感じですか?空を飛ぶって」 「え?」 「僕ら人間は最初から飛ぶ事は出来ない生き物ですから」 「あぁ、そうか。そうだよな…そうだな、自由と解放かな」 「自由と解放…僕は奪ってしまったんですねそれを」 チャンミンはつばめの巣を見上げながら呟いた。 確かにここは不自由だ 楽園に居た頃には用意に出来た事がすべて手動式のアナログな世界 空は飛べず     空に恋して 空は塞がれ   空を渇望し 自然の美しさは無機質で   季節の匂いを忘れてしまう 動く全てはブリキの軋み   身体が軋んでいるような錯覚 でも、選んだのは自分紛れも無い事実 「楽園もいつかここと同じようになるさ…」 「避けたい事実ですがね…矛盾してますよね。それを願っていないのに僕は階段を積み上げている」 「確かにそうだけど…だから、出会えたんじゃないか。俺はチャンミンに出会えてこの灰色の世界でも生きていけるって思ったんだから」 「ユチョン…僕は生まれてからずっとこの灰色の世界しか知らない。だから、輝かしい美しい世界を見てきたあなたが羨ましい」 「羨ましいか…俺はつばめがいた世界が羨ましい」 「どうゆう意味ですか?」 「ここは今人間が暮らすにはあまりに過酷だけれど、思いを耽るような過去がある。それだけでも楽しくないか?楽園はずーっと楽園だった。想像する楽しみなんかなかったからな」 「ユチョンは面白い事を言いますね。想像する楽しみですか…確かに、それはあるかもしれませんね」 楽園には時間の流れは無く 過去も、未来もない 地上には映画のフィルムがそこら辺いたるところに転がっていて、例えそれが劣化していたとしてもそれを映した事実は誰かの記憶として存在してる 楽園育ちのユチョンにはそれが羨ましかった .
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