護り人

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 この国──サウでは、崇拝する神のお世話役として、10代後半から20代前半までの期間、忠誠を誓う女性が選定される。  それは個人の自由を奪うものではなく、ただ熱心に祈りを捧げる様にと、教皇からお願いされる事で、拒否をする事が出来るのだが……  仮にミラが承諾して巫女に選ばれてしまっては、一緒に遊んだりする時間がなくなる事は必至であった。 「その“護り人”さんは、誰になるんですか?」  お茶受けに持ってきていた焼き菓子をひとつ口にくわえたまま、呆然と語る。その視線はどこを見ているのか分からない。  ミラは寂しそうな表情と微笑みを同居させながら、その名前を口にした。 「ゼノよ。君と同じ村出身の、男の人」  スイードが知っている名前だった。荒れ果てた地に住みかを築く村の人々にとって、彼はサウの未来を背負う希望だという話も聞こえている。そんな人物だ。  そしてこの名前は、ずっとスイードの胸の奥に、トゲの様につっかえるものとなる。
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