護り人

11/30
前へ
/176ページ
次へ
 サウの最南端の岬。海原を背にした場所に、黄土色や茶色のレンガを利用して造った大聖堂がある。  中央、両端に丸みを帯びた塔を建てて、それを繋ぎ合わせた造りになっている。先の方の高所に見える、山の頂きと背比べをしているかの様な高さだ。  この場所は、戦争敗者のサウの民にとって心の拠り所であり、信仰する神を祀る神聖な空間でもあった。  前大戦の際、戦えぬ民たちをかくまっていた広大な遺跡群。寺院と同じ様に、中を改修して造った建造物であった。  潔白を神に示すには程遠い、朽ち果てそうな聖堂ではあったが、長期間身を隠す事を考えて造られた居住空間である。  未だなお、生まれ続ける難民を受け入れる場所として用いられていた。 「教皇様、ただいま参りました」  純白の肩がけと黒のローブという衣装の教徒たちが集まる場所には、到底似つかわしくない1人の男が、聖堂内の一室の前に訪れていた。  中にいる白いヒゲをたくわえた老人レイサルは、男の声に反応して、窓辺から視線を扉の方に移す。  まぶたをきつく閉じると、金の装飾にふちどられた重厚な扉が、ひとりでに開いて行く。 「結構なおてまえで。この術も、ノール王国に対する反骨精神のたまものですね」 「傲慢なるノールと袂を別ってから、我らサウの民は、自分達の力で生きていくしかなくなった。術は我らが得るべくして得た力だ」  閉鎖的な国で生きる人々が、自然と心を通わせる道を選んだ結果である。
/176ページ

最初のコメントを投稿しよう!

29人が本棚に入れています
本棚に追加