護り人

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「私に子供を……? またあの子たちなのですか?」  レイサルは静かに頷くと、窓の方に視線を移す。外には青い海が広がっていて、水面の光に目を細めた。  その視線は、海のずっと向こう。水平線の果てを見つめている様に思える。 「人はまだ、戦争が残した傷を忘れられていない。過激派たちが、いずれはノールに攻め入るだろう。奪われた自分たちの大地を取り戻すためにな」 「ノールによる平和な暮らし。我々サウにとってみれば、それは支配と同義なのかも知れませんね」  大陸はその昔、いつ終えるとも分からない泥沼の争いをくり返していた。  始まりは小さなもの。  複数の移民たちが大陸で各々の暮らしを築き、めぐりあった際に、争いを始めた。  大陸の先住民たる《サウ・クスーダ》は、母なる大地を取り戻さんと、戦争勝者の王国(ノール・フース)に対する憎悪の炎を、未だ絶やさないでいるのだ。 「大陸暦1006年。《ノール・フース》による大陸統一。あれから1000年以上の時を経ても、人の業は捨てられませんか……」  クルストは、膝の上においたマントを脇に携えて立ち上がり、テーブルの紙に視線を落とす。 「争い。それは、人の根源狩猟本能から来るものだ。仕方あるまい。尽きせぬ欲望を満たすために、生きる者たちなのだから」  その言葉を背に受けながら、入り口まで歩むクルスト。
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