序章

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 その日私は、星になっていたのかも知れない。 「もっと速く走って!」 「もう……いいよ、無理だよ」  漆黒に包まれた深い森の中を、リスかウサギの様に走る私たち。  絶望感で崩れ落ちそうな心と同じ様に、ふわふわと頼りなくて、身体がどこまでも黒い夜の森に、すい込まれていくみたいに。  子供の体力なんてたかが知れているもので、必死に逃げようとしても、全力で走り続けられるのは数百メートルくらい。  まだ、森の中腹にも至ってないだろう。  道とは呼べない場所に、身体ごとで突っこんでいるから、茂みで擦れた足のすねや腕が痛い。赤い切り傷が、いくつも浮かんで来た。  それは、一緒に走ってくれてる──私の手をしっかりと握ってくれてる彼──スイードも同じで、肘の辺りから伝う真っ赤な血の筋が、私の心をしめつけた。
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