護り人

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 青い空をおおい隠そうとする様に伸びたいくつもの岩山が、周囲を囲んでいた。少し先には、赤茶色の土の荒野ばかりが広がっている。  わずかに垣間見える空を見上げれば、万物に生きる力を与える太陽が鎮座していた。  しかしその光は、岩山の陰になっている集落には届いていない。  昼でもどこか薄暗く、冷たい荒野の風を受けるこの村を、“天に捨てられた場所”と呼ぶ者もいた。  すり鉢状にくぼんだ地形。地下と言ってもよいくらいの深い地で、ひっそりと暮らす人々。  ここは《アーリ・グロース》大陸の南に位置する国。《サウ・クスーダ》領内にある村である。  大昔から人々が生きて来た事を伝える絵が描かれた遺跡の跡地。  そこに彼は住んでいた。 「スイード、どこに行くつもりなの。そんな危ないものを持って!」  いくつものブロックを敷き詰めて作られた長い通路を抜けて、外に出ようとしていた少年スイードを、呼び止める者がいた。  その声に反応してふり向いた時、銀色の髪が風に揺らいだ。 「母さん、危ないものじゃないよ。これは自分を、そして大切な人を護るための剣なんだ。師匠が言ってた」  腰に携えた1本の黒いフォルダーから抜き取られた剣。その刀身は灰色に色づいていた。
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