黒猫と日溜まりと始まりの夜

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───誰かにつけられている。 そう感じて振り向くが、暗く静かな道に、動く影は見受けられない。 低く暗い雲の垂れ籠める空。 ざわめく木々。 現在の時刻21時07分。 6月の某金曜日。 普段なら、こんなに遅くなったりしない。 が、今日は仕事に珍しくミスが出てしまい、残業になってしまったのだ。 「………。」 やはり人影はない。 じっと目を凝らすも、月明かりもなく、頼りの電灯の光も消えかかっている。 踵を返して、また暗い道を歩き始めた。 普段と同じ道だが、夕方と夜とでは全く違う道の様だ。 遠くから音がする。 テレビの音。 水を流す音。 人の笑う声。 そして、足音。 (やはり、いる。) 湿り気を帯びた風が髪の間を通り抜けていく。 その追い風に押され、自然と足を速めた。 .
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