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その女は突然現れた。
みんな一瞬見て、視線を動かしてから、ぎょっとしたようにもう一度見た。
だって当然だろ?
こんなところにパリッパリのスーツ着て。
どこぞのシャンプーのCMに出てそうなサラッサラの黒髪をポニーテールにして。
いかにも“デキル女”です、と主張するようなメガネのヤツが…。
こんな痛いほど、眩しくて。
むせるほど、タバコ臭くて。
目が回る様な赤や緑やピンクの髪のやつらがいる様なこっちの世界に───かくいうオレも金髪だけど───いるとは思わないだろ、誰も。
目がいくだろう、自然と。
その人は堂々と、道の右側を歩いていた。
大抵のやつらは、どう扱っていいのかわからないので、見なかったことにした。
害はなさそうだったし、通りすぎるだけのようだったからだ。
何人かのやつらは、金を巻き上げようと近づいたが、あまりの堂々っぷりに声をかけずに引き返した。
オレだけ。
オレだけ、目が離せなかった。
時々湿っぽい風が吹いて、あの人の黒髪がなびいて。
それだけの、ことなのに。
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