プロローグ。

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久々に違う景色をみた。 流れる水が赤い夕日を乱反射して、世界をキラキラと彩っている。 空気は綺麗とは言い難いけれど、その景色は汚点を補ってなお余りある。 やっぱりここへ来てよかった。 そう思う。 身体はまだ辛い。いや、正直に言ってしまえば今までのどんな時より重かった。 それでも、あの白ばかりの部屋の風景にはもううんざりしていたのだ。 どうせ終わってしまうのなら、最期くらい自分の好きなところで迎えたい。 ここは東京だ。 少し離れたところでは当たり前のように、車や人々の喧騒が空気を揺らしている。 朝も夜も決して眠ることはなく、汚れていく環境に生きにくさを感じる人もいない。 そんななかで、この小さな土手は光月(コウキ)の秘密の穴場だった。 土手自体は低く、一番下にいても立ち上がれば土手向こうからでも姿が見えてしまう。 それに土手の狭間を流れる小川はとても細い。ちろちろと小石をなでる水が頼りなくて、川と呼べるのかもうたがわしい。 それでもここには、確かに自然が息づいていた。 座り込んだ土の上はしっとりと濡れていたけれど、嫌な気はしない。 緑がかった病院服を、優しく夕暮れのそよ風がなでていった。
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