特命!

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「それはだな、特命だから気にするな。今回は例外だ」 といわれても、渚は腑に落ちなかった。 特命だからといってそうも簡単に掟を破ってしまっていいのだろうか。職務上最低限の過去への干渉は必要だが、必要以上に過去に干渉してしまうとその先の未来に大きな変化を及ぼしかねない。 そういうことを危惧して設けられた掟であって、特命だからといって簡単に破ってもいい掟とは渚には思えなかった。 杉野に目を向けてみるが、小さく首肯するだけだった。上司のいうことには逆らえない。渚もそういうことなのかな、と納得するしかなかった。 「わかりました」 「納得いかなさそうだね」 「はい、少し。それと今回の特命は、どうして私が任命されたのですか。私みたいな下っ端よりも先輩方のほうが――」 渚が喋っている途中から、瀬戸は口を挟んだ。 「君には期待しているからだ。だから今回は天野に任せてみようと思った」 真っ直ぐに渚を見据えた瀬戸の声には力がこもっていた。期待しているという言葉が、渚はうれしかった。 「天野も今年で二年目だ。こういった大きな仕事を経験しておくのも悪くない。もちろん私たちもできる限りサポートする。今回は重大な任務のため、報告はまめに行うようにしてくれ」 「わかりました」 「杉野から過去から戻ったばかりと聞いている。時流歩の使用も残り一回だろう。新しいのを渡しておく」 瀬戸はわずかに膨らんだ白衣のポケットから時流歩を取り出した。 時流歩はいわゆるタイムマシンで、見た目は二つ折りの携帯電話とほとんど変わらない。渚も自分の時流歩を取り出し、瀬戸のものと交換する。 「では頼んだよ」 瀬戸はポンと渚の肩を叩いて、扉に向かって歩き出した。 杉野は頭を下げて見送り、渚もそれに倣った。扉のノブを掴んで、瀬戸は止まった。 「天野、戻ってきたらまた星でも見に行こう」
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