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ところがである。
校舎を一歩出た瞬間、ふっきったはずの問題が脳みそを占領してしまった。
おい、待てよ。俺は赤田とは違うって……。
そう思ったがどうしようもねえ。
だってよ、あのベンチにひとり腰掛けてるあの娘、俺の理想とピッタンコ(死語)いや、理想以上だぜ。
と、その娘が立ち上がりこっちに歩いてくるじゃねえか。
おい、周りに人はいねえぞ。俺を待ってたみたいじゃねえか。
「やっと、見つけたわ」
その娘は俺の前まで来て、ホントに嬉しそうにそう言った。
舞い上がっちまうぜ。俺。
「あなた、超能力を受け付けない能力を持ってるのね?」
なんだと? どういうことだ? からかってんのか。しかし、さっきの笑顔は……。
「私ね、『読心』の能力を持ってるの。でも他人の心が分かることに飽きたの。
小さい頃はマシだったんだけどね。最近はストレスばっかり溜まってしまって……」
「そんなもんか。赤田の奴はそんな悩み持ってなかったがなあ」
つい、心の声が外に出ちまった。
ああ、記念すべき第一声がなんてくだらねえ台詞なんだよ。
「それはあなたといる時間があったからよ」
俺にそう返してくれる彼女の言葉など、俺にはどうでもよかった。
あまりに綺麗な声に、俺は感動に身を震わせていた。
「それで? 俺に何か用なのか」
クールに決めようとしたが、どうやらにやけた顔を完全に隠せなかったらしい。
「そんな顔で言う台詞じゃないわね。
…………ね、私と付き合って欲しいの」
一瞬だけ間を置いて彼女はそう言った。
その瞬間の俺の顔は最大限にフニャフニャだったに違いない。
もし、俺が『飛行』の能力を持っていたら、大学の上空を何十回も旋回してみせていたはずだ。
そんくらい俺は喜んだね。
あんたに分かるか?
いや、分かんねえだろうなあ。
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