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西條結城は空を見上げていた。
雲が一つもない真っ青な世界を。
鳥も虫も姿を見せ無い。
あるのは間延びした青と、傲慢に輝き続ける陽。
風が頬を撫でる。
初夏の陽気は半袖に寒く長袖に辛い。
長袖の結城は袖を僅かに捲って、硬いコンクリートに体を預けた。
「気持ちいい空だねぇ」
呟きに表れた安らぎは表情にも見える。
彼はコンクリートに預けた姿勢を全く変えず、ごく当たり前のように瞳を閉じた。
視界を遮断した後には、遥か遠くからの声だけが脳へと届く。
子守歌のように。
或いは、
誘い文句のように。
結城はどちらの響きとして感じ取ったのだろうか。
既に浅い寝息を立てているその表情からは、見て取れなかった。
赤子のような顔を、初夏の風が優しく撫でていった。
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