日常

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「……よし」 弁当箱の隅にあった米粒を口に投げ込んでから箸を置く。 食べ始めから五分。 未だに騒ぎ立てる周囲の部活仲間。 一瞥だけしてから席を立った。 「優子ちゃん、どこ行くの?」 「あー、先輩捕まえてくるわ」 言葉に何かを嗅ぎとったのか、騒めきの矛先は優子へと向けられる。 「旦那?」 「あの人面倒臭がりやだしな」 「熱々だねぇ」 「羨ましい」 「リア充め……」 様々な言葉が投げられる。 そんな中を苦笑いの表情で出口まで歩く。 重厚な扉と、手を引っ込めてしまう程の冷たさを帯びたドアノブ。 二つを順番に見てから、力任せに扉を開け放つ。 「寒い……んだ」 半袖の優子は冷気に触れた肌を押さえながら呟いた。 鳥肌の立った二の腕を擦って歩きだす。 階段を昇り、屋上へ。 誰も居ない最上階の踊り場は、冷気を濃く含んでいた。 夏なのに……。 思わず発した言葉は天井で跳ね返って、遥か下の一階まで響いた。 ややの静寂。 破ったのは優子。 勢い良く屋上に通じる扉を開いた。 一瞬、彼女の傍らを通り過ぎた柔らかい風は、 初夏の甘い香を運んできてくれていた。
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