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そこで、タクシーを降りる際も、待ち合わせ場所の数十メートル手前で降りることにしている。  レストランや料理屋がいくつか入っているホテルの場合は、それほどでもないが、それでも、そのレストランなり、料理屋に入るときは、それとわからないように小声で店の人間に声をかけたりしている。  車は、米国大使館を右手に見て、左に折れた。目指すホテルの玄関が見えてくる。 停車すると、早足で指定された料理屋を目指す。  のれんをくぐると、仲居が驚いたようだ。この店には何度も来ているが、今日はだれと待ち合わせなのか想像がつかないらしい。  「大日新聞の神田さんの部屋に」  大川は、財務省から秘書に電話のあったうその会社名と名前を言った。大日新聞といっても架空の名称である。政界に通じた印刷物はごまんとある。大手紙から専門業界紙までしかりだ。いちいち料理屋は気を回さない。
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