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「あぁっ!やっぱり心配だっ!」
「そうか?」
「あのアルテアだぞ?!」
「そうだが?」
「やっぱり、信用できない!」
「ほう。」
そこまで、会話ともいえないような会話を続けて、彼は切れた。
「聞いてるのかよ!?」
こんなに一生懸命心配しているのに、相手は聞いているのか、聞いていないのか、まるで他人事のような気のない返事ばかりなのだ。切れずにいられようか。
「あんな得体の知れない国の、得体の知れない姫がこれからこの国に来るんだぞ!しかも、ただの外遊でもなければ、なんか不穏な目論見引っ提げてるに決まってるだろ!その上、よりにもよっておまえの后になんて…。…おまえの后には何人か目星をつけてたって言うのに…」
常ならば何があっても漏らさないようなボロを出してしまった自覚もなく、さらに続けようとした彼に、対座する男は初めて意志を感じさせる声を出した。
「聞いているさ。」
それまでは、特に相手に向けているでもなかった黒の双眸を相手の緑のそれにあわせる。
強すぎる目力のせいで、視線を合わせただけで相手を竦ませてしまうこともある漆黒の双眸だが、幼なじみでもある優男はこれしきのことでは動じもしない。
「俺の結婚に対することはともかく、おまえのアルテアに対する持論は嫌というほどな。」
嫌みを織り交ぜた言葉は、一瞬の後に無視された。
「…じゃあ、早めにお引き取り願えよ。高慢な鼻っ柱をへし折るなりなんなりしてさ。」
ニヤリと笑った萌葱の瞳を、さらに力を込めた漆黒で静かに見返す。
「そんなことできるか。もう何度も言ったはずだ。…あちらは腐ってもこの大陸一の古王国。こんな新興国が軽んじただなどと下手な風評がたって見ろ、周りの国がこぞってうちに攻めてくるぞ。大義名分振りかざして。……それに、だな。もし万が一、見知らぬ国に嫁ぐことに不安を抱くようなか弱い姫ではないとも言い切れん。」
手の内の願望をさらけ出した幼なじみに呼応するように、現実的な見解に、願望を織り交ぜた。
自分で口を動かしながらも、あり得ないという思いが、茶化した口調とすくめた肩に表れていれば、対する男も毒気を抜かずにはおれないというもので。
「……ありえない。」
新緑の目を片方だけ眇めて、ばっさり切り捨てると、息を吐いた男からは奇妙なほどの熱さが消えていた。
茶色の巻き毛を一つかき混ぜ、そのままま手櫛で直す。
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