第1章 顔の無い男

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「実は私もお話しなければならない事が 有って、ずっと考えていて。 私、田舎(いなか)へ帰ろうかと、思って おりましたの、貴方のお話を伺って決心 が付きましたわ! 丁度良かったのじゃありません、 私も居なくなる。 ここも処分なさって、もう足を掬(すく) われる事も有りませんもの。 数年後、総理になった貴方を、私は福島 の田舎から応援していますわ」 穏やかな表情で話を切り出した彩乃に、男は暫(しばら)く言葉も無く魅入っていた。 「そうか、田舎へ 済まない、 もう何年になる?」 「お世話になって5年 好きにさせて頂いてましたもの。 貴方に拾って頂かなかったら 私」 「そうか5年か! すると、お前も25になるのだな」 彩乃の言葉に出会った頃の事を、思い出し小さく笑うと、改めて自分が囲っていた女が、25才になっていた事に男は気付いた。 「では、それ相応の事はしてやらんとな」 「いえ、今、貴方が私に何かして下さる と、きっと目に付きますわ! 特にマスコミに。 もう充分(じゅうぶん) 良くして頂きましたもの、 私物だけ頂いて東京を離れるつもり」 男の腕にそっと手を添(そ)えて、彩乃は微笑んだ。  
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