第1章 顔の無い男

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興奮していた事も、アダになったのかも知れない。 男の腕を勢い良く振り解こうとした女は、不自然な体勢から脚を縺(もつ)れさせ、テーブルの縁(ふち)に脚を取られた。 咄嗟(とっさ)に女は腹を庇(かば)いながら、大理石のテーブルに頭から突っ込んで行き、鈍い音を発てテーブルの上で、俯(うつぶ)せの状態で動かなくなった。 男は呆然と立ち尽くす。 「おい!彩乃、大丈夫か!?」 我に返った男は慌ててテーブルを回り、動かなくなった女の側に膝を着いて声を掛けた。 「おい、どうした?」 テーブルの縁から上半身を乗り出して動かない女の肩に、男は両手を添(そ)えて起き上がらせ様とする。 「えっ!?お、おい彩乃」 上半身を何とか抱き起こし、男は女の顔を覗き込んだ。 「ヒッ」 男の喉笛が鳴る。 目を見開いた女の額はザックリと割れ、傷口からドクドクと血を噴き出させ、女の白い肌を真っ赤に染めていた。 思わず男は女の肩から手を離し、後ずさった。 支えを失った女の上半身がテーブル上を滑り、絨毯に頭から落ちて行き鈍い音を発てた。 後を追う様に長い髪が絨毯に広がる。 やがてベージュ色の絨毯が女の血を吸い、散った長い髪の間に紅い花を咲かせた。    
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