第6章 クリッパー 仙崎狂介

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    「やっと見付けた!」 荷台のアルミボディに指先を這(は)わせ、欲望と絶望の記憶を読み取った大地は、黒い喜びの中で小さく呟(つぶや)いた。 その時、背後で砂利を踏む微かな音を聴いた、刹那、太い風切り音が耳に飛び込んで来る。 咄嗟に身を翻(ひるがえ)す。 [ズガッ] 大地の側頭部を掠(かす)め、鉄パイプが肩に食い込む。 「ぐっあっ!」 大地の口から苦痛の呻(うめ)きが上がる。 身を屈め左腕で、頭をガードしながら顔を上げ、大地は襲撃者を確かめ様とした。 次の瞬間、腹に強烈な蹴りが打ち込まれ、背後の荷台に身体を打ち付け、上体が折れる。 折れた上体を続け様に2発、鉄パイプが襲い、喘(あえ)いだ大地の顎(あご)先を、靴の甲が掬(すく)い上げる様に蹴り上げた。 大地は唇と鼻から血の糸を引きながら、後頭部を荷台に打ち付け、ズルズルと車体に背中を預けたまま、地面に沈み込んで行き意識を失った。 ■ ■ ■ ■ 両頬を強烈な平手が襲い、痛みに意識が浮上する。 やがて大地の霞(かす)む視野が、徐々に明瞭(めいりょう)さを取り戻して行った。   
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