第6章 クリッパー 仙崎狂介

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    大地は今どう言う状態に置かれているかを、具(つぶさ)に観察する。 『手足は自由だ、荷台奥の壁に背を預け脚を投げ出し座らされている。 男達は2人、仲間はまだ駆け付けて来ていない。 ライダースジャケットは脱がされ、床に投げ捨てられている、今は上半身Tシャツ1枚の状態。 背骨と肩、顔面に激しい痛みは有るが、どうやら骨に異常はなさそうだ。 『口の中を切ったが、今は鼻血と一緒で  止まった様だ』 押し黙ったまま答えない大地の目の中を、男がジッと覗き込む。 「おい!」 背後の男に声を掛け立ち上がると、男はラフな服装をした筋肉質な男と、入れ代わった。 「なぁ、話した方が良いぜ」 [グボッ] 入れ代わった男が、大地に声を掛けた瞬間には、男の爪先が大地の腹を抉(えぐ)る様に、減り込んでいた。 「ぐはっ!」 肺に貯まった空気が、一気に大地の口から吐き出される。 「なっ?痛(いて)えだろ、だからよ!」 男が再び声を掛けた。 [グバッ] 大地の左頬を痛烈な蹴りが襲い、頭を先に身体が荷台横の壁に飛ばされ、激突音が荷台内部に響き渡った。 「チッ、床を血で汚しちまった」 倒れ込んだ大地の血が、荷台の床にひかれたベニヤ板を血で染めて行く。 「堪(たま)んねぇなぁホラ!」 ボタボタと鼻と口から、血を滴り落とす大地の鼻先に、男がボロ布を丸め放った。 大地はノロノロとした動作で床のボロ布を掴み、鮮血が溢れ出す鼻と口を押さえた。   
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