第6章 クリッパー 仙崎狂介

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    筋肉質の男が扉を開け放ったまま、外で待つスーツの男の元へ足を向けた。 「おいっ」 スーツの男の怪訝な声が、荷台に残った大地の耳に届く。 [グボッ] 肉を打つ重い音が上がる。 「ばっ、かな  何を!?」 スーツの男の驚愕(きょうがく)の声が、切れ切れに聴こえた。 数瞬、闇に肉体を打つ音が響き渡り、やがて静寂な夜が辺りに戻る。 砂利を踏む靴音が荷台入口へ近付いて来た。 「良いぜ、出て来てくれ」 荷台の光が届かない暗がりから、声が掛かる。 大地は壁に手を着きながら、入口まで歩き、暗がりへ目を凝らす。 微かに地に横たわるスーツ姿の男と、トラックの荷台の傍(かたわ)らに佇(たたず)む男を確認した。 「降りられるか?」 男が声を掛けて来る。 「あぁ、ゆっくり降りればな」 苦笑いで答え、大地は荷台の縁(へり)へ腰を降ろし、足先からゆっくりと、地面に身体を下ろした。 「怪我は無いかい!?」 暗がりに佇む男へ声を掛けながら、大地は近付いた。    
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