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「江原組の浅井って言います。
本部よりお聞きになっておられると思い
ますが、カギだけを置いて速やかにこの
部屋をお出になり、人目にだけは注意を
なさってお帰り下さい」
部屋に招き入れられ、リビングまで案内した50代後半と思(おぼ)しき男に、浅井は事務的な口調で言葉を並べた。
男は力無くリビング入口の扉の横に佇み、浅井の言葉に反応も無く、壁に背を預け頭を垂れている。
「どうします?あたしらそんなに時間
を、掛けたく無いんですがねぇ」
男の態度に業を煮(ごうをに)やした浅井が、強い口調で声を掛けた。
ピクンっと男の肩が反応し、ユックリと右手がズボンのポケットへ伸び、カギを取り出しその手を浅井に向け差し出す。
慌てて若い男が近付き、カギを男の手から受け取った。
「それじゃあ、後はお任せ下さい。
足元にお気を付けて」
浅井の言葉に男は相変わらず、俯(うつむ)いたまま言葉も無く、ユックリとした動作で壁際から離れ、リビングのドアを開けると廊下へ出て行く。
「伸夫(のぶお)、玄関のドアからこっそ
り、今のオッサンの様子見てろ、ヤバそ
うだったら連れ戻して来い!」
毛足の長い絨毯に俯(うつぶ)せになって、倒れている女を見下ろしながら、浅井は伸夫と呼んだ、若い男からカギを受け取り、耳元に苦い顔を近付けて、小声でそう命じた。
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