第6章 クリッパー 仙崎狂介

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    窓も無い工具小屋のスライドドアを開け、奥の照明だけをつけると、男は後に続く大地を振り返った。 「一先(ひとま)ずここに居てくれ、入口の カーテンを閉めときゃあ、誰もここは覗 かねぇ筈だ」 大地にそう声を掛けると、男は小屋の中へ入って行き、抱えた男の身体を静かに床に下ろすと、ロープとガムテープを用意し始める。 背後で大地は黙ったまま、男の作業を見守った。 男がスーツの男の手足をロープで縛り、ガムテープで口を塞ぐと立ち上がる。 「じゃあ少しの間、ここで隠れて居てく れ」 大地の肩を軽く叩くと小さく笑って、筋肉質の男は入口へ向かいカーテンを引くと、小屋の外に出てドアを閉めた。 筋肉質の男が小屋から遠ざかる靴音を聞きながら、大地はスーツの男の前にしゃがんだ。 壁に男の上半身をもたせ掛ける様に起こし、男の頬を大地は軽く叩いた。 幾度か繰り返す内に微かな呻(うめ)きを上げ、男が意識を取り戻した。 「目を覚ましたか、静かにしろ、 そう驚くな」 目を見開いた男が目の前の大地に気付き、身をよじり暴れ出し、塞がれた口から言葉に成らない声を上げる。 皮肉な笑いを浮かべ、大地は男を見詰めた。   
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