第1章 顔の無い男

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男が玄関ドアから出たのを見計らい、伸夫は足音を殺し、男が出て行ったドアを薄目に開き、そっと廊下を覗く。 エレベーターホールの手前の角で、ホールを覗(うかが)う男の背中が伸夫の目に飛び込んで来た。 『うん!』 部屋で顔を合わせた時とは違う、男の醸(かも)し出す雰囲気に違和感を感じ、伸夫は靴を履き廊下に静かに滑り出る。 ホールへと消えた男を追う様に、伸夫は男が一時佇んでいたホールを覗(うかが)える角まで、足音を殺し急いだ。 そっと覗いた伸夫の視線の先で、男はエレベーター前で辺りを警戒する、鋭い視線を向けていた。 『あのオッサン、、、俺達の前で演技して  やがったな!  うん、あれ!?』 下りのエレベーターが着きドアが開くと、男は大股にエレベーターに乗り込んで振り返り、威厳(いげん)の有る表情でボタンを押す。 様子を覗(うかが)っていた伸夫に、その顔を晒(さら)した。 『クソッ!あのオッサン顔を俺達に印象 付け無ぇ様に、やっぱりフリしてやがっ た。 しかし、何処だったかな?確かに俺でも 知ってる顔なんだが、テレビ、いや週刊 誌だったか!?』 エレベーターの扉が閉じるまで、伸夫はジッと男の顔を、ホール入口の角から見ながら、男の素性を思い出そうとした。    
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