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「兄貴!」
浅井が女の死体を改めていると、戻って来た伸夫が声を掛けて来た。
「おぅ、どうだった?」
女から目を離さず浅井が応える。
「あのオッサンとんだタヌキですぜ、こ
の部屋に居た時と、雰囲気が全く違いや
がって・・・何も無かったって面(つら)し
て、エレベーターに乗って行きました
ぜ!」
眉を寄せて伸夫が答えた。
「まぁ、そんな事たぁ良く有る事よ、葬
式ん時神妙にして涙まで流してんのに、
その場を離れた途端、大口開けて笑って
る奴なんざ、珍しか無ぇしな」
伸夫の物言いに浅井が苦笑いを漏らす。
「そんな物(もん)スか?それより兄貴、俺
あのオッサン見たこと有るんスよ!エレ
ベーターの扉がこう閉じようとした時、
あのオッサンが外へ真っ直ぐ向けた目付
きを見て、アッ俺このオッサン知ってる
って、まだ思い出せないんスけど」
身振り手振りで報告する伸夫の話しに、興味を引かれた浅井が顔を上げた。
「ホォ~、そいつは・・・さっさと思い
出せ、思い出したら俺にだけ報告しろ!
それより風呂場に行って、洗面器か何か
にぬるま湯を入れて来い、それとタオル
も2、3枚頼む!」
「ぬるま湯、スか?」
小首を傾(かし)げながら、伸夫はリビングからバスルームへ向かった。
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