第1章 顔の無い男

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「兄貴!」 浅井が女の死体を改めていると、戻って来た伸夫が声を掛けて来た。 「おぅ、どうだった?」 女から目を離さず浅井が応える。 「あのオッサンとんだタヌキですぜ、こ の部屋に居た時と、雰囲気が全く違いや がって・・・何も無かったって面(つら)し て、エレベーターに乗って行きました ぜ!」 眉を寄せて伸夫が答えた。 「まぁ、そんな事たぁ良く有る事よ、葬 式ん時神妙にして涙まで流してんのに、 その場を離れた途端、大口開けて笑って る奴なんざ、珍しか無ぇしな」 伸夫の物言いに浅井が苦笑いを漏らす。 「そんな物(もん)スか?それより兄貴、俺 あのオッサン見たこと有るんスよ!エレ ベーターの扉がこう閉じようとした時、 あのオッサンが外へ真っ直ぐ向けた目付 きを見て、アッ俺このオッサン知ってる って、まだ思い出せないんスけど」 身振り手振りで報告する伸夫の話しに、興味を引かれた浅井が顔を上げた。 「ホォ~、そいつは・・・さっさと思い 出せ、思い出したら俺にだけ報告しろ! それより風呂場に行って、洗面器か何か にぬるま湯を入れて来い、それとタオル も2、3枚頼む!」 「ぬるま湯、スか?」 小首を傾(かし)げながら、伸夫はリビングからバスルームへ向かった。    
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