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「折角のベッピンさんが台なしだ、
燃やしちまう前に、綺麗にしてやらねえ
とな」
カサカサに乾いた女の頬の血を、指先でなぞり、浅井は懐から携帯を取り出すと、カメラモードにした携帯で、数枚の写真を撮った。
「兄貴・・・これで良いスか?
それで、どうするんスか、こんな物用意
して?」
浅井の傍らに湯の張った洗面器とタオルを置いて、伸夫が訊ねる。
「うん、あぁ、このベッピンさんの血を
な、落としてやるのよ。
人知れず葬(ほうむ)るにしても、このま
まじゃ惨(みじ)め過ぎるからな」
湯を張った洗面器にタオルを浸しながら、伸夫の問い掛けに答えると、浅井はタオルを軽く絞り女の顔に被せた。
「何してんスか?」
「あぁ、血がな、乾いちまってるから、
取り敢えず湿らせねぇとな、無理に拭き
取ろうとすっと、綺麗な肌に傷が付いち
まうんだ」
顎下(あごした)をかきながら、浅井が苦笑いを漏らして伸夫に答え、再度(ふたたび)女に視線を戻す。
「兄貴、兄貴って見掛けによらず、優しい
んスね」
「バカヤロー、見掛けによらずは余計だ
ろぅが!まっ、それだけじゃ無えけど
な、こんな事をしてんのは。
ただな、ヤクザだって女の股から産まれ
た、人の子ってこった。
ケッ、恥ずかしい事、言わせんじゃ無え
よ!」
頃合いを見計らった浅井が、濡れタオルで軽く女の顔を拭(ぬぐ)う、何度か同じ事を繰り返し、こびり付いた血を拭き取って行く。
その間伸夫は膝を着いて、ジッと浅井の手元を見詰めていた。
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