第1章 顔の無い男

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「折角のベッピンさんが台なしだ、 燃やしちまう前に、綺麗にしてやらねえ とな」 カサカサに乾いた女の頬の血を、指先でなぞり、浅井は懐から携帯を取り出すと、カメラモードにした携帯で、数枚の写真を撮った。 「兄貴・・・これで良いスか? それで、どうするんスか、こんな物用意 して?」 浅井の傍らに湯の張った洗面器とタオルを置いて、伸夫が訊ねる。 「うん、あぁ、このベッピンさんの血を な、落としてやるのよ。 人知れず葬(ほうむ)るにしても、このま まじゃ惨(みじ)め過ぎるからな」 湯を張った洗面器にタオルを浸しながら、伸夫の問い掛けに答えると、浅井はタオルを軽く絞り女の顔に被せた。 「何してんスか?」 「あぁ、血がな、乾いちまってるから、 取り敢えず湿らせねぇとな、無理に拭き 取ろうとすっと、綺麗な肌に傷が付いち まうんだ」 顎下(あごした)をかきながら、浅井が苦笑いを漏らして伸夫に答え、再度(ふたたび)女に視線を戻す。 「兄貴、兄貴って見掛けによらず、優しい んスね」 「バカヤロー、見掛けによらずは余計だ ろぅが!まっ、それだけじゃ無えけど な、こんな事をしてんのは。 ただな、ヤクザだって女の股から産まれ た、人の子ってこった。 ケッ、恥ずかしい事、言わせんじゃ無え よ!」 頃合いを見計らった浅井が、濡れタオルで軽く女の顔を拭(ぬぐ)う、何度か同じ事を繰り返し、こびり付いた血を拭き取って行く。 その間伸夫は膝を着いて、ジッと浅井の手元を見詰めていた。   
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