第1章 顔の無い男

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「アッ!思い出した、 あのオッサンの正体」 「オッ、思い出したか、よしよし、 でっ誰だった?」 あらかた女の顔を被(おお)っていた 血を拭き取った浅井が、目を細め訊ねる。 「それが偉え大物ス!現民自党現職の法 務大臣、相澤ナントカってオヤジっス」 「ホォ~」 伸夫の答えに、女に掛けた情(なさ)けを払拭(ふっしょく)する程の、ヤクザの本性が、浅井の顔に表れ始める。 「クククッ、金が向こうから転がり込んで 来る、音が聴こえねぇか伸夫! この事誰にも言うんじゃ無ぇぞ。 さぁーて、このベッピンの撮影会にも 力が入るぜ!」 綺麗に血を拭き取った女を見下ろし、浅井は再び携帯で写真を撮り始めた。 「ア、兄貴、写真なんて撮ってどうするん で?」 「フッ、今は本部からの御達示(おたっし) だからよ、素直に動くだけよ! 本部には内緒であのオッサンと、この女 の事を調べておく、ほとぼりが冷めた頃 を見計らって、俺とお前ぇで動く。 この写真と集めた証拠をネタに、あのオ ッサンに金を産む、ニワトリを演じて貰 うのよ! クククッ、なぁ伸夫、俺達ゃあツイてた ぜ!アッハハハハ、ヒィヤヒィヤヒィ ヤ・・・」 「はぁ?」 下卑(げび)た笑いに、見え隠れするヤクザの本性に、『これがヤクザか』と微かに胴震いをして、頷く伸夫だった。    
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