第1章 顔の無い男

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「失礼しても宜(よろ)しいですか?」 若者の突然の出現に、言葉も無く見上げる男へ、仙崎狂介は隣の席を指で示しながら訊ねた。 「えっ、ええ、お待ちしておりました、 どうぞ」 マグロの回遊に魅入っていた己の迂闊(うかつ)さに、男は一瞬たじろぎながら態勢を立て直し、傍(かたわ)らに佇(たたず)む若い男に応える。 「失礼します」 薄暗い水族館の観覧席で、男は隣の席に腰を降ろした端正な顔立ちの、仙崎狂介と名乗った男に視線を向けた。 「改めて名乗らせて頂きます、仙崎狂介 と申します。 貴方からの依頼と言う事でしたので、貴 方に関してのデータは、既(すで)に私の  頭に入っております。 ですのでこの様な場所を指定させて頂 き、私の方から貴方を探させて頂きまし た。 私の事を何処からお知りになったのか は、お聞きしません。 表の世界に情報は、どうしたって流れる 物ですから。 断って置きますが、私は殺人(ころし)は しません。 それと、今日御依頼をお請(う)けしたか ら、明日実行と言う様な性急な依頼も、 お請け致しかねます。   
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