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前金で300、完了後諸費用+300。
今回の依頼内容からすると、それだけの
金は必要となります」
「ええ聞いています、しかし本当にその様
な 、 、 、 」
「私の事を誰からお聞きになったのかは
詮索しません、1つお聞きします、私の
事を貴方に教えた者は、私について何と
言っていましたか?」
「顔も年齢も、姿かたちは思い出せない
が、裏の世界では有名な、クリッパー(記
憶の切り取り屋)だと」
男の答えに仙崎狂介は満足そうに頷いた。
「そう、私と関わった者達は、須(すべか
ら)く私の姿かたちから、顔も声までも忘
れている。
依頼終了後の残金を受け取った時点で、
私は私に関しての重要な部分の記憶を、
依頼者の頭の中から、切り取らせて貰っ
ているからです。
御理解頂けましたか、そう、こうして貴
方に私は顔を晒(さら)す事を、厭(いと)わ
ない訳が。
私はClipper(クリッパー) 記憶
を切り取る者、
顔の無い男と呼ばれている」
目を細め男に微笑み掛ける、仙崎狂介の瞳の奥に、孤独な能力者の陰を、男は垣間見た気がしたのだった。
男は怖ず怖ずと手にした大判の封筒を、仙崎へ差し出す。
「全てと聞いていますが?」
受け取った封筒の中身を確認した仙崎は頷くと、男に視線を向けた。
「それでお願いします。
その方が、本人も幸福(しあわせ)だろうと
勝手ですが・・・」
男は薄暗い観覧席に座り、自分の両の手に視線を落としながら、重い返事を返した。
男はその姿勢でそこに何分(なんぷん)、腰を降ろして居たのだろうか、我に返った男が辺りを見渡し、何時(いつ)の間にか1人切りで有る事に、その時初めて気付いたのだった。
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