第1章 顔の無い男

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「でも本当に、今日はどうされたの? 何時も決まった日にしか、 いらっしゃらない貴方が」 男の為にコーヒーをテーブルに用意して、ソファーで寛(くつろ)ぐ男の隣に腰を降ろし、彩乃が声を掛けた。 「うん、実は近く我が与党の、内閣改造 が発表と成るのだが、昨夜総理から内々 に私に打診があった。 今度は官房長官の席をとね」 渋い表情でほんの少し口を着けたコーヒーを、テーブルに戻した男が彩乃に応える。 「あら、おめでとうございます! でも、どうなさったの、難しいお顔?」 「うん、総理からの打診の際、クギを刺 されたよ、身奇麗(みぎれい)にしておく 様にと。 女で総理の椅子をひと月で失った例も、 過去には有ったのだからと、言われてし まった」 彩乃の明るい表情に対し、男は猶(なお)一層渋い表情を作り語った。 「そう、私の事 ですわね! 言いづらそうなお顔。 黙って消えちゃおうかな、 とも考えたのですけれど」 ほんの少し済まなそうな眼差しで、彩乃が言葉を切る。 「何を言い出すのかね?」 彩乃の言葉に男は戸惑いながら、言葉を掛けた。   
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