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「あいにく俺は女性経験が少なくて女子の体なんて保健体育の教科書程度の知識しかないもんでね。そこまで考える余裕ないや」
「屁理屈はいいのよ! もう、あたし1人でやるから、ほっ……放っておいてよ!!」
「やだね。てか、目大丈夫か? えらく充血しているように見えるのだが」
「うっ……うるさいわね。ゴミが入っただけよ」
綾瀬さんは『ふんっ!!』とイライラした気持ちを放出するかのように顔を反らす。
「そうか? まぁこんな悲惨な状況を見逃すほうが気分悪いからな。加勢してやるよ」
その言葉に嘘はなく、ただありのままを伝えた。
「なんで……よ」
コンマ一秒の静寂の後、狩りを終えたチーターの如く柔らかな口調だった。
「さぁ、なんでしょう」
「うざ、きも」
「うるせ。とりま時間ないだろ? なら手伝ってやるよ」
「だっ……だから!!」
負けん気の強い目で、じっと見つめられる。
俺は催眠術をかける魔術師の心持ちで光沢な黒目を見つめ返す。
「うっ……近づかないでよ」
怖じ気付いたのか? 綾瀬さんは沈黙の威圧から距離をとるように二歩後退する。
「悪かったな。とりあえず俺の気が変わらない内に片付けようぜ?」
俺は綾瀬さんに背を向けてしゃがむ。
「階段から落ちてきた美少女を助けていたら遅れました。なんて理由になんないからよ」
「『美少女』って……あたしが?」
なんか、妙に『美少女』って所をしっぽを踏まれた猫のように強調するが……なんつうか、その反応が……おもしろい。
「他に誰がいる?」
「はぁ!? ばっっっかじゃないの!?!?」
綾瀬さんは『ふんっ』な勢いでそっぽを向くのだが、ちらちらこっちを見てくる。
顔もトマトジュースを面からかぶったみたいに真っ赤だし、左右の長いツインテールがぴょこぴょこ動いているし。
こいつ、可愛いところあるじゃん……いわゆる『萌え』ってやつ?
「あーもう! わかったわよ。あんたに仕事をあ、た、え、れ、ばいいんでしょ。与えれば」
「与えるって。犬じゃあるまいし」
「ふーん犬ねぇ……」
……なんか、綾瀬さんの目が『ピカーン』って光った気がしたのは、俺だけでしょうか?
このまま平穏無事に終了することを願いながら、資料の大海原に挑む。
終始、綾瀬さんの表情が微炭酸程度に怒っている感じはするが、まぁ大丈夫だろうよ。
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