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そして、俺は湯きり不十分でねっとりした三百五十円の醤油ラーメンを。
翔はご飯、味噌汁、サラダ、唐揚げ、おひたし、っと言うランチメニューを並べる。
「いいよな。お前、金持ちで」
「うへへ、そうか?」
「その、なんだ。あの如何わしいの」
「……望ちゃん相手でも言って良いこと悪いことが……」
「名前なんだっけ?」
「僕の気持ちも察してよ!! 親友だろ?」
「そうだったか?」
「……そんな私日本語わかりません的な顔で言うなよ。如何わしいって言われるのは腑に落ちないが……『俺の嫁ノート』か?」
そう言って、翔はブレザーの胸ポケットから見て目は普通、中身はR指定のノートを取り出す。
表紙には『俺の嫁ノート。取材専用』っと書かれていて、暇さえあればノートに女の子のスリーサイズや耳寄り情報を書き留めて、毎週十ページ位の本で売っている。
あ、こいつの一人称が『僕』なのに『俺の嫁ノート』って所はつっこむのもめんどうなのでなすがままに流しておこう……うん。
んまぁ翔が言うに、校内外問わずの定期朗読者がいるらしい。
そして、収益は昼食代やアニメのブルーレイやグッズを買うために使われる。
アニメをはぁはぁしながら見ている奴が、なぜ三次元の人間の情報を集めているのかは俺も知らないんだよな。
「僕は全世界何千億人もの恋に飢えているレディーの中から、最もタイプなのを選抜しているのだ」
翔は無駄に鍛えられた胸筋を強調させて、鼻息を荒上げる。
正直、見てられない。
「……何千億人って、それじゃあ宇宙船地球号は定員オーバーになるぞ」
「ふはは、細かいことは気にしなぁーい!!」
「いやいや、かなり重要だからな?」
「ふっ、まぁ望の意見は後に反映させるとして……僕は無駄な恋愛なんてしたくない」
翔はメモ帳をオールバックで剥き出しのおでこに当てる。
「その策が『俺の嫁ノート』だ!! んで、望!?!? 丼を置いて何処(いずこ)に?」
「あっ、俺。トイレ行くから片付けよろしくな。じゃあ、教室で再会しよう、相棒」
「え……おっ……おぅ!!」
単純な奴で助かる。
俺はラーメンの販売所を『今日の湯きり、最高でしたよ』っと皮肉まじりにアイコンタクトしながら『アミー』を去る。
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