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俺は右手をポケットに入れながら、一番近い職員室側の階段を避けて、反対側に向かった。
そして、トイレでスッキリして手を洗ってから外に出る。
何の変哲もない日常だ。
このまま昼休みが終わって、午後の授業でラノベ読んで、帰りは翔とウインドショッピング。
こんな日々が繰り返される。
でも……何か物足りない気がする。
それは物心……いや、記憶が戻ってから消えることのないもやもや。
俺はある時点を境に記憶がない……断言する。
何を忘れているのか、それすらも検討がつかない。
ただ、手の平の刻まれたイナズマの刻印と不定期に起こる偏頭痛が、俺の身に何かがあったことを物語っていた。
「はぁ……」
無音の威圧に包まれた階段に右足を乗せる。
「……なんだ?」
なんの前触れもなく、目の前が暗くなる。
目線の先では不安定極まりない四角いダンボールの重なりが、決壊寸前のダムのように暴れていた。
飛ぶ直前の鳥のように荒ぶるツインテールが、俺の胸を蝕む。
「……あんな量……ほんとに女子が運んでいるのか!?!?」
あんなの、俺でも無理だぞ。
年中読書野郎に筋力を期待しないほうがいい。
刹那。
「キャーー!!!!」
黒髪ツインテールの美少女は足を滑らせた反動で身体が半回転し、身の毛がよだつような叫び声が階段中に響きわたる。
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