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新たなる始まり。
『………………』
6月が過ぎた頃…日に日に暑さを増す夜に、人気のない市外にある廃校の屋上に1人の少女が立っていた。
その容姿は妖しい美しさによって輝く魅力がある、青く染めた髪を夜風に靡かせながら、角度によっては黒から深紅へと色が変わって見える、奇妙な瞳で遠くに見える街並みを眺めていた。
首には細いペンダント用の銀の鎖、その鎖は胸へと垂れ下がっていて、その先には丸く透明度の高い水晶を握りしめた、悪魔の手を模した、不気味なアクセサリーが付けられている。
『……つまらないわ』
しばしの沈黙の後、呟いた言葉はその一言のみだったが、それだけで彼女の感想が全て述べられていた。
【なにがつまらないんだ?】
彼女の言葉に応じて、声を投げかけてくる存在が居る…だが、その姿は見当たらない、月が雲から出て廃校の屋上を照らそうと、少女の周りには他に人影すら無かった。
『決まってるでしょう?』
冷徹…そう言っても差し支えない声色で、見えない姿の誰かが問いた内容に答えた。
【何を今更…ただの人間が、我々に太刀打ちできる訳もあるまいに】
『分かってるわよ、ただねえ…、スリルを味わいたくて、こんな場所に来る連中が後を絶たないから、わざわざ来たのに、来る連中があまりにも歯応え無さすぎるんだもの、ビビって悲鳴ばっかり上げてるばかり…抵抗が無い相手はつまらないわ』
少女は声の主に語る。
『しっかし…よく毎日同じ事をして飽きないわね、仕事、酒、女、賭事、遊び…まるでコピー品ね、個々に人格があるようで無い、誰かの真似ばかりのつまらない人間だけ、ここのところは、そんな経験の「魂」ばかり』
少女の声色に嘲りが含まれ、深紅の瞳は鋭い輝きを闇の中で放つ。
【そう言う時代なのだろうな、今の人間は自分で何かを考えて新たに生み出すと言う、オリジナリティ性が低いからな、物質面で満たされ過ぎているのが原因だろう、自分が何もしなくて、誰かが新しいものを考えつくのを待っている】
姿無き者の声には、少女のような人間をあからさまに嘲る声色でこそ話さないが、同じような思いを抱いているのだろう。
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