episode1 お猿の大将

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冷静に、澄ました顔で言う幸村に“猿山の大将”も唯々呆けるばかりである。 「…やっぱ変な女だな、テメェ。俺の退治を依頼されたくせに、此処まできて止めるとか」 「仕方ないじゃないですか。私は貴方が気に入ってしまったんです」 「ハぁ?!」 耳を疑うような言葉に、“猿山の大将”は声が裏返ってしまった。 咳払いをし、幸村にその言葉の真意を問う。 「アァ~…気に入った、っつーのは…?」 「そのままの意味です」 「いやいやいやいや。テメェ村の連中に俺の退治を頼まれたんだろ? それはどうすんだよ!?」 「大丈夫ですよ。退治――つまり、貴方が私に屈伏すればいいんですから」 「はぁああ?!」 “猿山の大将”が顔を引きつらせる。 何故だか嫌な予感がし、彼は嫌な汗が止まらなかった。 「テメェ、屈伏ってまさか…」 「はい。貴方には、今日から私の部下になってもらいます」 「んなぁああぁあああ?!!」 耳が痛くなるような声が山中に響いた。 幸村も僅かに顔を顰めたが、すぐにまた話し始めた。 「ですが立場は対等です。人前でだけ、『主と忍』と云う関係を繕って下さい」 「はぁあ!?『主と忍』!?てか、忍って俺かあ?!!」 「はい。村人から聞いています。貴方は忍術を使えるそうですね。しかもそれを利用して悪業を行ってるとか」 「ぐっ……!!」 “猿山の大将”が言葉を詰まらせる。 どうやら図星のようだ。 苦虫を潰したような顔をしている。 「大丈夫ですよ。悪いようにはしませんから」 薄らと、幸村が微笑んだような気がした。 それを目の当たりにした“猿山の大将”、またもや魅入ってしまったようだ。 「んだよ、そう云う顔も出来んじゃねぇか…」 「何か言いましたか?」 「別に。それより腹括ったぜ。テメェの忍になってやるよ。どうやら俺もテメェが気に入ったらしい」 「決まりですね」 話しがまとまり、二人は改めて視線を交えた。 まるで目で会話をしているような光景だった。
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