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冷静に、澄ました顔で言う幸村に“猿山の大将”も唯々呆けるばかりである。
「…やっぱ変な女だな、テメェ。俺の退治を依頼されたくせに、此処まできて止めるとか」
「仕方ないじゃないですか。私は貴方が気に入ってしまったんです」
「ハぁ?!」
耳を疑うような言葉に、“猿山の大将”は声が裏返ってしまった。
咳払いをし、幸村にその言葉の真意を問う。
「アァ~…気に入った、っつーのは…?」
「そのままの意味です」
「いやいやいやいや。テメェ村の連中に俺の退治を頼まれたんだろ? それはどうすんだよ!?」
「大丈夫ですよ。退治――つまり、貴方が私に屈伏すればいいんですから」
「はぁああ?!」
“猿山の大将”が顔を引きつらせる。
何故だか嫌な予感がし、彼は嫌な汗が止まらなかった。
「テメェ、屈伏ってまさか…」
「はい。貴方には、今日から私の部下になってもらいます」
「んなぁああぁあああ?!!」
耳が痛くなるような声が山中に響いた。
幸村も僅かに顔を顰めたが、すぐにまた話し始めた。
「ですが立場は対等です。人前でだけ、『主と忍』と云う関係を繕って下さい」
「はぁあ!?『主と忍』!?てか、忍って俺かあ?!!」
「はい。村人から聞いています。貴方は忍術を使えるそうですね。しかもそれを利用して悪業を行ってるとか」
「ぐっ……!!」
“猿山の大将”が言葉を詰まらせる。
どうやら図星のようだ。
苦虫を潰したような顔をしている。
「大丈夫ですよ。悪いようにはしませんから」
薄らと、幸村が微笑んだような気がした。
それを目の当たりにした“猿山の大将”、またもや魅入ってしまったようだ。
「んだよ、そう云う顔も出来んじゃねぇか…」
「何か言いましたか?」
「別に。それより腹括ったぜ。テメェの忍になってやるよ。どうやら俺もテメェが気に入ったらしい」
「決まりですね」
話しがまとまり、二人は改めて視線を交えた。
まるで目で会話をしているような光景だった。
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